仮想世界でも構わない、ガルバだけが安寧の地だ
H.N/ヘブン李依
今の時代、日本ではオタク文化が昔よりも受け入れられるようになってきたという。さらに女性たちがオタクの推し活動に対して、理解と共感が増えてきたとTVで放映していた。
かくいう私自身もオタクでありかつて東京に住んでいた時は、メイド喫茶やコンセプトカフェなどに通ってはいた。とはいえ東京での店舗が多く拠点が東京だった頃は良かったが、地元に帰省してからはそのような店舗はない。
ちなみに自分がメイドカフェやコンセプトカフェで働いている女の子に対して推し活をしているだけではなく当然のようにアニメやゲームのオタクであり、フィギュア集めにも余念がないことをプライベートで仲良くなれた女性に打ち明けたはいいが、思い切りドン引きされた(笑)受け入れられてきたとはいえ、まだ個人差はあるし一部では偏見が厳しいと実感。それからなんとなく、オタク活動に身が入らなくなった。他にも、歳を重ねれば重ねるほどメイド喫茶には行きづらくなったと感じる。
しかし、そうして足が遠のき、自分はオタクではないと自らを偽り続けて生活をしていると、どこかで発散させなければならないと若干の危惧を覚える。
恋愛はもう半ば諦めの境地にあり、やはりお店に通い発散をさせようと四苦八苦しながら検討をした。結果として候補に上がったのが、賭けに近いともいえるガールズバーだった。
なぜかというと、ギラギラしたドレス姿の女性の接客ではないこと、性欲の発散ではないから風俗でなくても良かったことなどが挙げられる。
あとは年齢層だけがネックだが、当然あまりにキャピキャピしすぎてない、ややキャスト年齢層が高そうな店をターゲットに絞った。期待として「若者のみならず、アラサーやアラフォー客も居ますように」という淡い願望が入り混じっていた。
そうして店に入ったが、入念な下調べどおり落ち着いた感じの店だった。いらっしゃいませという言葉は、エネルギー全開ではなく少しのどかな発声といった感じで、安心感がある。
ひとまず着席して飲み物をオーダー。ビールを注いで、私についてくれたのはツインテールの美少女・A美さんだった。このお店の中では一番若そう……うーん、でも愛想が良く可愛いからそれもまたヨシと、自分に言い聞かせる。
「お兄さん、仕事は何をしているんですか?」と言うのだが、アラサーの私にお兄さんと言ってくれるとは思わなかった。気分も高揚したが、オタクを打ち明けるかどうかの悩みはまだ拭えない。
やや下向き加減でいると「何か悩みがあったら、私で良ければ聞きますよー」と、A美さんはまだ二十歳にもかかわらず上出来な接客をしてくれた。
打ち明けてみると、なんと彼女もまた私と同様にオタ趣味があったのだ。びっくりしたのは、好きなアニメで全く同じ作品が被っていたのである。私がフィギュアを収集しているコレクターだというのも恐れることなく話したが、一切引かれていない。
以前好きな人に話して嫌われたトラウマがあったが、話せたのは愛想の良さに加え、屈託のない笑顔のツインテールだったA美さんのビジュアルと雰囲気に安心したからだった。
「私は、コスプレをしてコミケ会場に行くのも好きなの」と告げられたが、おそらく彼女には、ファンも大勢いるに違いない。
しかし、カウンターを挟んでという、密着はないものの真正面で話せる嬉しさは、私の想像以上だ。
しばらくして、ガールズバーにはカラオケ設置の店舗もあるらしく、同店も用意がある旨の説明を聞く。歌ってほしいと言われ、私はまず定番中の定番のバラードソングを入れ歌った。ただ、ありきたりで安定を狙いすぎたような選曲であったことも確かである。
次の歌をリクエストされた時、自分を思い切り表現してみないか!?と、もう1人の私が自分に問いかけ、自問自答する。思い切って私はロボットもののアニソンを入れていた。恐る恐る歌ったあと、拍手が湧きA美さんも笑顔で応対をしてくれて何と形容して良いか分からない気持ちになった。
別に、特別な美人との夜の営みを果たすといった奇跡を経験したわけではない。しかし商売上の建前とはいえ、ありのままの私を受け入れてくれたのが初めてだったからこそ価値がある。
A美さんが他の客のところへ行って違う子が私に付いた時、そのキャストさんも引くことなく対応してくれたのだ。 気になったので、後日他のガールズバーにも行ってみた。前回のお店ほど完璧な許容度ではなかったものの、やはり良いもてなしを受けた。つまり、誤差の範囲である。
私にとっては、メイド喫茶やコンセプトカフェよりも、もしかしたらガールズバーが一番向いているのかもしれない。普段なかなか味わえない感情を共有できるのでこれからも通い続けたい。