固定観念と孤独感も消す、ガールズバーは聖地
H.N/智雄
夜の世界で働く女性について、僕は今までマイナスイメージを持っていました。その理由は僕の家庭環境にあります。
家庭は両親が母のだらしなさで離婚、父子家庭で育った僕と姉。母は元スナック勤務で、客とデキてしまい父から逃げるように去っていったのです。さらに姉も母の悪い血が継承されてしまったのか、現在はキャバクラ勤務の飲んだくれという始末。
だから僕は二十歳を迎えた際も、職場の先輩から誘われた時も夜のお店だけは拒否していました。
さて、僕の性格で悪い点は、何事も先入観だけで判断したり被害妄想が強かったりするところでしょうか。よって友人は乏しすぎる数で、休みの日は1人きりの状態が続くこともしばしばあります。なお、姉は夜間はキャバ勤務で、父も夜勤につき夜の家は本当に空虚なもの。
そうした日々が続く中、姉が珍しく同僚の女の子たちを家に引き連れて来ました。ああ、うるさくなるなと思いつつも、その日は思いがけぬ出来事が起きました。姉たちが寝ついた後、ひとりの子が起きていて僕に話しかけてきたのです。
話し相手がいないから喋りたいという内容でしたが、1人淋しくしていたためここは固定観念を取り払い話してみました。もちろん僕の質問内容は夜のお仕事に関してですが、ラウンジやキャバクラではなくガールズバーだと、嫌気が差す事なく楽しめるのではないかという話だったのです。
理由は「指名や同伴がなく、貢がなきゃいけない事態にはなりようがないから」とのこと。お洒落なバーをカジュアルにして、カウンターに女の子が居て飲んで話すだけで、気も晴れやかになるというのです。
確かに凝り固まった思考回路は、修理とメンテナンスをする必要があったのかなと思い、僕はその日から考え方に柔軟性を持たせるようにしました。そしてネガティブな気持ちを一旦捨て去って、都内のガールズバーへ出陣することにしました。
街歩きから見つけるにはキャッチの多い東京なので、なるべく路上勧誘を受けないようSNSでお店を調べました。また、女の子が自ら投稿をしているところが安心材料になると判断し、用心深くチェック。そうして訪れましたが、扉の前は誰も立っていなかったため、ドキドキしながらお店に入ります。
開けた瞬間「あ、いらっしゃいませ」と元気はつらつの挨拶をしてもらい、キュートな店員さんに案内してもらいました。内心、1人で来たことに何かツッコミを受けるのではないかと当然のように危惧したのですが、心配にはおよびませんでした。
とはいえ「今日来てくれた、きっかけっていうのを聞いていいかな?」と質問を受けます。正直にSNSから知って来店したことを告げました。「なら、私が投稿していたのは価値があったんだね~!」と店員さんはハイテンション。
僕より2つ年下、21歳の彼女はマリちゃん。僕とほとんど髪の長さが変わらないショートヘアの子ですが、ボーイッシュスタイルの美少女といった感じでものすごくビジュアルは高いです。他の店員さんのほとんどがロングヘアなので、マリちゃんはひと際個性がはっきりわかります。
トークに色恋営業の要素はなく、ドリンクもせがんで来る気配がありません。リラックスした雰囲気の中、好きな食べ物は何か、グルメスポットだとどこが好きかという日常トークが前半の中心です。話しているうちに僕は、凝り固まった固定観念のことを完全に忘れていました。
またビールを飲んでいる時、マリちゃんはひたすらトークに付き合ってくれていたため、気になって僕からドリンクを入れてあげました。何より想定していたボトルといった高額ドリンクと違い、ガールズバーで女の子にサービスする飲み物はすごく安価なのです。
続いて「キャバとは全然違う感じが伝わった?うちはリピートしてくれるお客さんを大事にしているよー」と、また好印象になる言葉を受けました。なお、複雑な家庭環境と姉がお水をしていることも告げると、彼女もどうやら似たり寄ったりの環境だったらしく共感を覚えます。現役のスナックで働く母親のようですが、酒癖が悪いのと男にだらしないと言っていました。
マリちゃん自身は、ダメンズに引っかからないよう注意しつつしばらくガールズバーを続け、20代後半からスナックへ移るビジョン設計をしているそうです。前職が保育士で、激務によって心身不調の期間が長かったからというのです。僕の仕事も先行きが不安定の百貨店勤務なので、マイナス部分ではありますが共通点に喜びを感じたし、孤独感はしっかり取り除けました。
僕はガールズバーにこれから通うことを決意。そしてこれを機に、キャバをしている姉とのわだかまりも解けそうです。