むさ苦しさにGOODBYE!聖地のガールズバー
H.N/男塾の卒業
水産加工業の会社に入り、早5年。2年目までは要領が悪く、居残り残業の常連だった俺も、ようやく上層部から頼られるようになった。
職場は加工に伴う添加物、魚独特の臭いなど華やかさは皆無。しかし、1度仕事に定着するとリストラの懸念が少ないのが利点だろう。田舎工場は面積が広い会社が多く、当然従業員も何十・何百人にのぼることも少なくない。
となると出会いについては結構あるように見られるが、業務中は陰気臭さが漂うので、皆仕事が終われば家に一直線だ。また田舎ゆえの出会いの少なさも顕著で、地方の未婚率も上がるのは至極当然だろう。
そんな俺は、32歳にもかかわらず既にバツ1の状態。そもそも、パートナーとの同居をしているとどこか窮屈で、喧嘩は絶えなかった。
同棲もせずに結婚したのも甘かったわけだが、休日は遅くまで寝ていたいのに家事や野暮用をしろとうるさく、逃避するようにパチンコ・スロットなどにハマっていた気がする。
幸い子供が居ないので、ある種完全独身に近いほどフットワークは軽い。ただ、パチは離婚を機に卒業し、これといった趣味もないので休日はもっぱらドライブだ。
友人は少なくはないので「俺もドライブに連れて行ってくれよ」とせがまれることもある。しかし、男同士のドライブは切なく、かつ田舎なので長い1車線の道路をひたすら走っていると、何ともいえない虚無感が襲いかかるのだ。
そして、帰り際に友人が「確かに女っ気が全くなくて、何かむさ苦しいな……」とつぶやいた。野郎とばかり遊んでいてはさすがにまずいと危惧した俺は、BARの要素+女の子が居る酒場をさがした。
見つけたのは、キャバのように指名や貢ぐ心配がなさそうなガールズバー。また友人から恒例のように遊びの誘いがあったため「今回はガールズバーに行くぞ」と連行した。
おばさんが絶対に居ないだろうという店をチョイスしたが、店に入ると想定通りで安心。黒とピンクが混ざったような店内で、客は1組程度。
「いらっしゃいませ」の声掛けと女の子が登場し「田舎の人口の少なさが功を奏したな!」と同時に響き渡る笑い声。
「今日は仲良しのお友達と来たんですね。え?初めて?」との問いに答えている一方で、友人は何やら女の子たちの胸元や足元に見入っている。
小声で「おい……あからさまに見たらいかんぞ」と釘を指したら「アハハ、声聞こえていますよ」とツッコミを受けた。
確かに、友人がガン見してしまうのもわかる格好だ。胸元はノーブラなのだろうかと思うほどで、下半身もミニ丈から覗く脚がとても眩しい。なのに、キャバ嬢のような近寄りがたいドレスでもないので、何か親近感を覚える。
そこで新規客1名が来店し、俺達に付いてくれた2人のうち1人が新しい客のほうに付いた。
「ガールズバーは忙しくなると一対一じゃなくなることもあって、ごめんね」と言われたのだが「いや、男二人で居酒屋より華があっていいし、キャバより居心地もいいと思う」と俺は返した。
するとメインでついてくれているAさんいわく「キャバにどっぷりハマって、お金を使いすぎたお客さんがガールズバーに来ることも多いよ」との事。
なるほど……欲がうごめく世界には行かなくて良かったなと胸を撫で下ろし、引き続き会話と酒を楽しむ。
1時間の飲み放題で1人3,000円なのだが、俺は安い気がした。都会の相場は知らないので聞いてみると、40分で5,000円以上もザラらしく、田舎で良かったなと感じる。
ここでもう1名のBさんが戻ってきたところ、友人が「ねえ、お姉さんは彼氏とかいるの?」と、相変わらず空気読まねえなと思いつつも「ヒ・ミ・ツ」とあしらわれており、漫談のような光景は見ていて面白い。
いわばスナックのようにママがカウンターにひとりというものではなく、3人いたら女の子全員が立っていることもある。加えて、ちょっぴりセクシーで目の保養にも良いし安価で飲み・話せるし、いい事ばかりだ。
そして「時間になったけど、延長はどうする?」とAさんから言われ、金額を聞いて即応じる形に。結果、1時間3,000円と延長30分1,000円で、合計90分居ながら1人4,000円だ。なお、500円のドリンクを女の子2人に入れてあげたが、会計は2名でたったの9,000円。
どうしてもっと早くガールズバーに行く考えが生まれなかったのだろう?という嬉しい後悔が余韻となった。
友人も満足していたのでまた行くことになったが、強いて難点を挙げるとすれば、福岡みたいにもっとガールズバーがたくさんあればいいのにということくらいかな。