トーク力を磨くためガールズバーに通った僕の結末
H.N/PS.抱き寄せたい
3流大学に通っていた僕にはロクな就職先もなく、薦められた営業職は到底務まるものじゃないと思い、気づけばフリーターに。飲食店でしたが激務と罵倒で辞めてしまい、現在は郵便局の配達員になりました。
来る日も来る日もエンドレスで郵便物を届ける毎日ですが、飲食店の時の多忙や厳しさはなくて、ようやく仕事も落ち着く段階へと入りました。
同世代と比べると極めて低い給与ですが、激務+体育会系は避けねばなりません。僕は一匹狼というか、ただの草食系のもやしです。甲斐性もなくて経済力がないけど、まだ24歳だからいいかと自分を正当化しています。
ちなみに交際人数はたった2人、遊び癖はなくて浮気ももちろんできないので、人によっては一途と言ってくれます。しかし一方では面白味がないと辛辣な言葉を受けることもあります。やはり恋愛経験が少ないため、話の引き出しが絶望的にないのでしょう。
また、元カノからは「もっと沢山しゃべって欲しい、リードもしてくれないのが残念」とこき下ろされたこともありました。そうしてトラウマも刻まれてしまった僕は、流行りのマッチングアプリはどうもやる気になれず、恋人を無理に作りたいとも思いません。
しかし恋愛偏差値の低さをどこかで磨けたら良いのに…そう思い、空っぽの頭に喝を入れ脳内模索が始まりました。
そしてとある日、郵便配達を終え業務を片付けたあと、本屋で恋愛にまつわる本を探してみることにしました。キャバ嬢との付き合い方、銀座ママの極意、ガールズバーの楽しみ方といった類いの本が目に入ります。
購入はしなかったもののピンと来て、夜の世界の女性とトークを重ねれば話し下手も改善されるかと思ったのです。
キャバは敷居が高く感じましたが、ガールズバーなら行けるかもと感じました。好奇心が芽生えてきたので、早速調べたうえ休前日に繁華街へ出かけてみました。
僕が向かったのは、飲み放題つきで50分3,000円のお店です。打ちっぱなしのコンクリートに、ネオンライトがわずかに光る店内。カジュアル過ぎず、ギラギラもしていないので僕の好きな感じです。
「来てくれてありがとうございます。選んでくれた理由は?」と聞かれ「安すぎず、高くもなくて、バ、バランスがまあ良い感じで選びま…」と言い切る前に、しまった、つまらないトークは駄目だと自己制御。
ギリギリセーフと思うもすぐに「初めてですか?」と質問があり、はいと言ったあと正直に来た真の理由も伝えました。
「私たち、いや、今他の子はもうお客さんに付いているけど、話し下手が改善できるよう沢山お話しようね」と言ってくれたSさん。ショートカットで金髪、派手ではあるけど裏表はなさそうな感じです。
「う、うーん、Sさんは計算高い感じがしないのがいいなあ」と、童貞かとツッコみたくなるおとぼけ発言がやはり出てしまいました。
吃りへの指摘はあったものの、言い方は「私は仕事でいつも異性のお客さんと話すからトーク慣れはしているけど、最初入った時なんてもう同じように口を開いたらすぐ噛んだり変なこと言ったり、無茶苦茶だったよ。慣れるから大丈夫」との事。
まあ、なんて優しいのだろうと、気持ちもほぐれていきます。レモンサワーが2本目に入ったところで、彼女にもドリンクを入れてあげました。
すると「普通はキャスト側から言わないとお客さんからドリンクもらえないのに、お兄さん気が利くね」と褒めてもらえました。
50分が経過し、店を後にした僕は彼女に伝えたように、すぐ翌週と再来週にも立て続けに来店します。ちゃんとSさんが出勤する日を聞いていたので、毎回彼女には会えました。
3回目の来店時「今日もトーク力改善のため、よろしゅう!」と元気一杯で挨拶。「あれ?見違えるようにパワーがみなぎってない!?前回と違うよ」と、先週と違う印象を与えたようです。そしてレモンサワーと梅酒を飲み、楽しいトークが続きます。
後半、彼女は「お兄さん、もう初回と違って女の子から指摘されることもきっとないよ」という合格のサインが。しかし、こんなに楽しいのに「私、来月から自分の可能性を広げるため大阪のクラブで働くことにしたの」という突如訪れたバッド・エンディング。
ああ、僕は彼女に恋をしていたのか…現実に戻された僕はまた原付きを転がし、空洞同然の心で仕事へ勤しむ日々へ逆戻り。人生なかなか上手くは行かないものの、彼女と堪能できたガールズバーでの束の間は一生忘れません。