独身ライフを上質なものにするのがガールズバーだ
H.N/田吾作
過去に転勤で北海道を離れた事がある私。5年程度だったが、やはり地元が心落ち着くものだ。今は実家の独身者だが、結婚への願望はない。
デジタルの普及で、異性と簡単にネットで繋がることができる。とはいえネットとはバーチャルに近い感じで、出会いというのはなかなかに難しい。
私の職場で結婚している同僚や上層部は、生気を奪われたかのように溜め息をつく者もいる。なかには離婚による慰謝料の請求をされた者もいるので、まさに戦々恐々としている。
ただ、異性との交流がなければ、心はやはり孤独が常につきまとってしまう。私はプレイボーイの気質がなく、派手に遊びたいという欲求がない。
正確にはパソコンやスマホの、言わばセクシー動画などで事足りているからだ。また少し前に、バーチャル彼女といった類いのアプリをダウンロードしたが、全く満たされなかった。
満たしたい気持ちはやがて、夜に活躍する女性の世界へと興味が移っていく。かつてスナックに付き添いで行った時は、ママに皆が話しかけるような場で、その空間の中で私は浮いていた。
もっと距離感が近いのはないかと、私は自分で調べ始めた。そして目に留まったのは、20代の女性が多いと思われるガールズバー。気になったのは、バーごとにコンセプトが違い雰囲気も違うところ。加えて、高級クラブのような、いわゆるVIP感も漂わない部分だろうか。
私は1人行動が得意なので、早速目星を付けたガールズバーへ足を運んだ。席は小さな焼鳥屋を広くした感じで、意外と居心地は良さそう。想像以上に明るい挨拶を受け、私は30代にもかかわらず緊張した。
「30代半ばだけど、大丈夫だったかな?」と言ったが「大丈夫、30代後半の男性も、中には40代のお客さんも来てくれますよ」という言葉に安堵を覚えた。次に職業を聞かれたが、これは至極普通の流れだろうな。早々に話を変え今度は私が質問を。
質問を投げかけたのは、私の対面で向き合ってくれた「Mさん」で、年齢は24歳だ。質問内容は、気になる男性客からのアプローチは多いのかという点。
「お酒が入ると、リミッターが外れたかのように、ガシガシ来られて困ることはあるかな」という回答だった。「俺はお姉さん達と歳が一回りも違うから、それはさすがにできないな」と言うと「お兄さんは紳士的なイメージだよ」と返してくれた。
確かに、店内を見渡してもルックスの悪い子は皆無。当然ながらアタックされても不思議じゃない、美の精鋭部隊ともいえる。距離は詰められなくても、美女との会話はとても心地良い。
また服装もドレスじゃなくてお姉さん系、ギャル風の派手さを削ったような感じなのも二重丸だ。あと、ミニスカートやミニワンピースなどで統一しているので、統一感が心地よい…いや、目の保養になる。今日は来て正解だったなと悦に入っていたら「お兄さんどうしたの?口数が減っているよ」とツッコミが。
酒の力も入っているためか、ここからはマシンガントークを繰り広げた。お相手をしてくれるMさんも、明るくおしゃべりが好きとの事で、話についてきてくれる。
時間は午後の22時30分で、平日だったためサラリーマンと思わしき客は一組二組と店を後にしていった。私は気分が上々なので、キャストにはドリンクサービスがあるのを思い出し、オーダーをしてあげた。安いため、暇を持て余していた他のキャスト分も入れてあげる。するとMさんは上機嫌になり、今度は彼女のトークペースが上がっていく。
「私は複雑な家庭環境が嫌で、逃げるように家を飛び出て、いまガルバで働きながら一人暮らしをしているの」という意外な回答。
「俺から見たら、皆華やかな世界でたっぷりと報酬を得て、幸せに満ちていると思ったよ」と返した。
私の悩みは特になく、強いて言えば結婚を諦めている程度だが、彼女に比べたらたいした問題もないと自分が小さく思えた。それもそうだ、こんなにも若い女性が苦悩しているのに、私の悩みなど、ちっぽけなものだと思えたのである。
楽しい時間はまさに束の間、すぐに過ぎ去るもので、あっという間に1時間が過ぎた。ただ、自分から行った夜の世界、ガールズバーは想定以上の満足度だ。
お一人で来る客もいるために、私もゆったりと落ち着ける。次回は、来月にまた来ることを告げ、店を後にした。北国住まいだが、心に灯火がついたように独り者の人生が楽しくなった気がする。